丸谷 才一 「思考のレッスン」 読了

小林秀雄さんが「批評は他人をダシに使って自己を語るんだ」と言ったことがあった。有名なセリフですね。
けれども、僕は、「対象である作品と自己との関係について語る」というふうに言い直すほうが、読者に惑わすことを少ないような気がします。 P.88-89

うんと感心した書評があったら、読んでみる。そして、もう一つ大事なのは、その書評を書いた人の本を読んでみることです。この二つをやるととても具合がいい。別の言い方をすれば、ひいき筋の書評家を持つことですね。 P.118

学者の書いたもので意外に忘れられているのが、百科事典などの大項目です。大項目は大物が書くことが多いんですね。ある程度の分量もあって読みでがあるし、長すぎもしない。その分野の全体の展望をつかまえるには、あれほど具合のいいものはありません。 P.121

一番大事なことがもう一つある。
まとまった時間があったら、本を読むなということです。本は原則として忙しいときに読むべきものです。まとまった時間があったらものを考えよう。 P.138

いつだったか川上徹太郎さんが、「一つの主題では書評は書けない、二つの主題をぶつけると書評が書ける」と書いてらした。僕は、これは実にいい教訓だなと思ったんです。P.149-150

辞書、事典の類を丹念に引いて読まなきゃならない本もあるし、引かないでどんどん勢いにまかせて読んで行ったほうがいいものもある。この辺は気合いものですけれども、一般的には事典の類はわりにまめに当たるほうがいいでしょう。それを怠るとやっぱりまずい。これは気にかかるなあと思ったときには、調べたほうがいい。 P.161

索引に目を通すと、一体この人は何に感心があってこの本を書いたのかというのがわかるんですね。中には、主題との関係で、当然あるはずの項目が索引にないこともあります。つまり、この本は何が扱ってあるかと同時に、何が扱ってないかということに気をつけて索引を一瞥しておくと、本文を読むときにとてもうまく行くんです。 P.168

考える上でまず大事なのは、問いかけです。つまり、いかに「良い問」を立てるか、ということ。ほら、「良い問はよい答にまさる」という言葉だってあるでしょう。もちろんずいぶん誇張した言い方だけれど、たしかに問の立て方は大事ですね。
では「良い問」はどうすれば得られるのか?それにはかねがね持っている「不思議だなあ」という気持から出た、かねがね持っている謎が大事なのです。
「良い問」の条件の第一は、それが自分自身の発した謎だという点です。他人が発した謎、でき合いの謎では切実に迫ってこない。仮にでき合いの謎だとしても、自分が切実に「おや、おかしいぞ。不思議だぞ」と思ったとき、それは良い問になるわけですね。
二番目に大切なのは、謎をいかにしてうまく育てるかということです。どんな謎でも、最初は「不思議だなあ」といった漠然としたものにすぎない。それを上手に「良い問」に孵化してやることが大切です。ところが、これがなかなかむずかしいんですね。P.180-181

次に大事なのは、「仮説」を立てるということです。
どうも現代日本人は仮説を立てることが嫌いですね。仮説を立てることは邪道扱いされる。しかしどんな定説であろうが、最初は仮説です。仮説を立てて、それでダメだったら自分で捨てればいいし、自分で捨てなくても世界が捨ててくれる(笑)
とにかく最初に仮説を立てるという冒険をしなければ、事柄は進まない。直感と想像力を使って仮説を立てること、これはたいへん大事なことです。
同時に、仮説を立てるに当っては、大胆であること。びくびく、おどおどしていてはダメです。同じ仮説なら、みんながアッと驚くようなものを立てたほうがいい。つまり仮説を立てるに当っては、学者的手堅さよりも、むしろ藝術家的奔放さのほうが大事だと思う。 P.208

その際、もう一つ大切なことがあります。型を発見したら、その型に対して名前をつける。
(中略)
偉い学者ならともかく、自分ごときが命名するなんてのはてれ臭いと思うかもしれません。でも、これはつけたほうがいいんです。なにも世間に発表しなくてもいい。自分が考える便宜として、名前をつけたほうがずっといいんですね。しかも、できるだけ華やかな、派手な名づけをするほうがいい。 P.214

ものを書くときには、頭の中でセンテンスの最初から最後のマルのところまでつくれ。つくり終わってから、それを一気に書け。それから次のセンテンスにかかれ。それを続けていけ。そうすれば早いし、いい文章ができる。 P.229

趣味の問題かもしれないけれど、僕はむしろ「対話的な気持で書く」というのが書き方のコツだと思う。自分の内部に甲乙二人がいて、その両者がいろんなことを語り合う。ああでもない、こうでもないと議論して、考えを深めたり新しい発見をしたりする。そういう気持で考えた上で、文章にまとめるとうまく行くような気がします。 P.250

だから、言うべきことをわれわれは持たなければならない。言うべきことを持てば、言葉が湧き、文章が生まれる。工夫と修練によっては、それが名文になるかもしれません。でも、名文にならなくたっていい。とにかく内容のあることを書きましょう。
そのためには、考えること。そう思うんですよ。P.269

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